⑥摂食嚥下・誤嚥性肺炎について
①摂食嚥下とは?
摂食嚥下とは、簡単に言うと食べること、飲み込むことです。
摂食嚥下は食べ物を認識してから口を経由して胃の中へ送り込む一連の動作のことで、それらの動作を5段階に分けて考えられることから『摂食嚥下の5期』と呼ばれています。
1.先行期(これから摂取する食物の硬さ・噛む力などを確認、予知する。)
2.準備期(食物を口腔内に取り込み、食塊を形成する。)
3.口腔期(舌の運動により食塊を口腔から咽頭へ移送する。)
4.咽頭期(食塊を飲み込み、咽頭から食道へ送る。)
5.食道期(食道のぜん動により食塊を胃に送る。)
今回は嚥下に関する3~5の、口の中のものを飲み込んで胃に送る、嚥下のお話をしていきます。
②嚥下障害とは?
嚥下障害とは食べ物を上手に飲み込めないことです。
③嚥下障害にはこんな症状があります。
→食事中にむせる。
・特に水分や、水分と固形物が混じり合ったものを飲み込む際に多く起こります。むせるのを避けようと水分を多き含むものを取らなくなると脱水につながってしまいます。
また、自分の唾液でせき込んでしまうこともあります。
→固形物を噛んで飲み込めなくなる。
・硬いものが食べづらくなり、麺類や柔らかいものを好んで食べることが多くなると栄養が偏り、低栄養につながります。
→食事をすると疲れる・最後まで食べきれない。
・咀嚼に時間がかかる、飲み込めない、飲み込んでも口腔内に食べ物が残ると食事に時間がかかるようになります。
食べるものが制限され、食べる意欲の低下につながります。
→食事のあと、声がかれる。
・声質の変化もよく見られる症状の一つです。
口腔内に食べ物が残留し、痰が絡みやすくなるとがらがら声になることがあります。
→体重が減る。
・食事量の減少、食事の内容の偏りによって低栄養状態になると体調を崩しやすくなり体重も落ちていきます。
④嚥下障害が引き起こす『誤嚥性肺炎』とは?
誤嚥性肺炎とは、通常飲み込む際に閉じられるはずの気管が閉じず、唾液や食べ物、胃の逆流物などが気管に入ってしまい起こる肺炎のことです。
唾液などが気管に入ると、その中に含まれる細菌が肺に送り込まれ肺の中で炎症を起こし、激しくせき込む、高熱を出すなどの症状が出ます。
日本では、がん・心疾患についで肺炎が3番目に多い死因です。肺炎で亡くなるほとんどが高齢者で、その中でも誤嚥性肺炎による死亡は7~8割を占めているといわれています。
また、日本人の死因の上位を占める脳血管疾患は誤嚥性肺炎の原因の一つとなります。
⑤『むせない』誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎・誤嚥と聞くと食事中にむせてしまう、自分の唾液でむせてしまう、というイメージがあると思います。『むせる』というのは気管に異物が入ってしまった時の防御反応のようなものなので、むせる力のある人は異物を吐き出すことができます。
しかし、加齢などによりこの『むせる』反射が起こらなくなってしまうことがあります。加齢以外にも、迷走神経系の麻痺・放射線療法・気管切開・向精神薬内服等もむせの反射の減退の理由となります。
『むせない』=誤嚥性肺炎にならない、ではありません。
⑥誤嚥性肺炎と糖尿病
加齢や糖尿病などの疾患により感染に対する抵抗力が低下してしまうと、誤嚥性肺炎発症のリスクが著しく高くなってしまいます。糖尿病の第6の合併症といわれる歯周病も誤嚥性肺炎の危険因子です。
⑦誤嚥性肺炎と口腔内細菌
口腔内細菌が多いと誤嚥性肺炎を引き起こしやすいことも知られています。特に歯周病原菌であるP.gとT.d の混合感染を発生させると両菌株が共凝集して強い病原性を発揮することも分かっています。(マウスの実験)
口腔内が汚れている(細菌の数が多い)と、細菌だらけの唾液、食べ物を飲み込んでしまうことになります。
⑧不顕性誤嚥とは?
食事中以外に起こる誤嚥で、主に睡眠中に起こります。先ほどお話しした『むせない』誤嚥です。
不顕性誤嚥は就寝時や昏睡状態でより多く起こります。無意識のうちに唾液が気管に流れ込み、むせの反射も見られません。
食事をしていなくても、口腔内は不潔になります。唾液による自浄作用も低下してしまいます。口腔内で繁殖した細菌を誤嚥してしまいます。
誤嚥性肺炎を防ぐには口腔内を清潔に保つことが大切です。
また、嚥下体操というものもあります。『口腔ケア 嚥下体操はじめよう!やってみよう!』から引用したです。ぜひ参考にしてください。
参考・引用
・健康長寿ネット 接触・嚥下障害とは
・摂食、嚥下障害の基礎知識と高齢者肺炎
・嚥下障害とは?原因と対策を正しく理解して毎日の食事を楽しく!(イリーザ)
・続 史上最大の暗殺軍団デンタルプラーク
・高齢者と誤嚥性肺炎
・口腔ケア
